誰もが笑顔で帰れる場所を目指してー50年の歩みと”続ける力”

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聴覚障害者の親の願いから生まれた「シュワッチ」

宗像市で50年の歴史を刻んできた手話サークル「シュワッチ」。その始まりは1975年、聴覚障害者の父母の会からの切実な願いでした。

「当時、手話は学校で禁止されていたんです」と語るのは、メンバーの𠮷野さん。口話教育※が主流だった時代、学校では手話を使うことが「恥ずかしいこと」とされ、子どもたちは友達同士でも隠れて手話を使っていたといいます。

しかし、大人になると自然と手話でコミュニケーションをとるようになった聴覚障害者の方々。当時は手話が禁止され口話教育が中心だったため、日本語の読み書きに苦労する聴覚障害者も多く、その姿を見た親たちは、「子どもたちには手話が必要だ」「社会に手話を広めたい」と考え、文章の勉強も含めた手話の勉強会を立ち上げました。

時代的にも、”障害のある人の権利”への関心がようやく広がり始めた頃でした。

※口話教育とは…手話を使わず、口の動きを読み取ったり発声練習をしたりして、音声言語でのコミュニケーションを目指す教育方法です。

「シュワッチ」という名前に込められた想い

当初は「宗像市手話講習会」という名称でしたが、約30年前に「シュワッチ」と団体名を変更。

「みんなが覚えやすく、親しみやすい名前にしたかった」とメンバーは振り返ります。

「シュワッチ」という名前には、ウルトラマンの決め技「シュワッチ」と手話の「シュワ」が重なり合い、明るく覚えやすいイメージがあります。実は東京大学や福島にも同じ名前の手話サークルがあり、「同じ想いで名付けられたのかもしれませんね」とメンバーたちは笑顔で語ります。

50年続く秘訣は「誰もが受け入れられる居場所」

「障害があるとかないとか関係なく、地域に一緒に住んでいる仲間という感じが強いんです」。代表の青木さんは、50年続く活動の軸をこう語ります。

シュワッチでは、聴覚障害者も健聴者も、年齢も経験も関係なく、対等な仲間として学び合っています。メンバーの中には、難聴で最近聴力が落ちてきた方、引きこもりから社会復帰のきっかけを掴んだ方、震災をきっかけに参加した方など、さまざまな背景を持つ人々がいます。

「ここに来たら誰かがいて、お話ができて、楽しくなって笑顔で帰れる場所でありたい」。そんな温かい雰囲気が、50年間人々を惹きつけ続けてきた理由です。

また、メンバー同士が自然にフォローし合う関係性も特徴的です。「私が行き届かなくても、誰かが話しかけてくれて、困っている人がいたらお互いに支え合っている」と青木さん。手話の勉強だけでなく、人と人とのつながりを大切にする場所として、多くの人にとっての「居場所」となっています。

週2回の講習会と地域に根ざした活動

シュワッチの主な活動は、火曜日の夜と土曜日の昼に開催される手話講習会です。年間を通じて38回ほど開催され、聴覚障害者が講師となり、健聴者のメンバーがサブリーダーとしてサポートします。

他にも、特に力を入れているのが、小学校での手話教室です。小学3年生を対象に、市内のほぼすべての小学校を訪問。「子どもたちは覚えが早くて、いろんな表現をしてくれるので面白いです」とメンバーは語ります。

コミュニケーションの方法として、手話だけでなく、口の形を読み取る際の工夫や、「伝わりにくいときは文字で書いて伝えてね」といった、さまざまな伝え方も教えています。
例えば、「タバコ」と「卵」は口の形が同じため区別が難しく、ジェスチャーを加えるなどの工夫が必要になります。

障害者理解を深めるとともに、「仲良くなる方法」として手話を伝えることを大切にしています。

また、市が開催する講演会などでの手話通訳も担当。年間40〜50回近く、地域のさまざまな場面で活動しています。

50周年記念公演

2025年、シュワッチは創立50周年を迎え、記念公演を開催しました。初めて、宗像市人づくりでまちづくり事業補助金を活用し、聴覚障害のある人が中心となって活動する”劇団「福岡ろう劇団博多」“の皆さんを招いて、公演が実現しました。

「開催にあたっては、本当に多くの方々に力を添えていただきました。多くの支えの中で公演を実現することができ、感謝の気持ちがさらに広がりました。横のつながりの大切さを、改めて実感しています」

そう語る青木さんは、続けて次のように振り返ります。
「多くの方に支えていただく中で、補助金の活用も後押しとなり、劇団の皆さんをお招きすることができました。半世紀もの間、支えてくださった方々へ感謝の気持ちを届けることができ、本当にありがたかったです」

会場となった日本赤十字九州国際看護大学のオーヴァルホールは、舞台と客席が近く、演者が観客席にまで回り込む演出もあり、約360人の来場者が一体感のある公演を楽しみました。

特に印象的だったのは、司会やトークショーを聴覚障害者が担当したこと。「普段は健聴者が話して、手話通訳がつく形が多いですが、今回は全く逆。なかなか見られない貴重な場面でした」とメンバーは振り返ります。

公演後には、16年ぶりに手話講習会に復帰したメンバーも。青木さんが送った案内のハガキを見て、「また手話を学びたい」と再び通い始めています。50周年という節目が、新たなつながりを生むきっかけとなりました。

手話を取り巻く社会の変化

シュワッチが誕生した50年前と現在では、社会の状況は大きく変わりました。

手話が禁止されていた教育現場も、15〜20年ほど前から徐々に変化。現在では多くのろう学校で手話が使われるようになりました。また、手話を取り入れたテレビドラマの影響もあり、手話への関心が高まっています。

「昔は買い物に行って手話を使うと、周りから注目されて恥ずかしかった。でも今は、街中で手話を使っていても誰も気にしない」とメンバーは語ります。

一方で、技術の進歩により音声文字起こしアプリなども普及しましたが、「便利なツールはあるけど、やっぱり会話する時は手話で目を見ながら話したい」という若い聴覚障害者の声もあります。また、講演会やイベントなどでは手話通訳者が配置されますが、日常の買い物や病院など、手話通訳制度※が十分に整っていない場面も多く、メンバーたちは「そういう時は私たちボランティアが必要」と活動の意義を感じています。制度では補いきれない日常の場面に、シュワッチは寄り添っています。

※手話通訳制度…聴覚障害者が社会生活を送るうえで必要なコミュニケーション支援として、自治体などが手話通訳者を派遣・配置する公的な制度です。

これからの展望―次世代へつなぐ想い

50年という節目を迎えたことで、メンバーの皆さんからは“手話で人とつながる大切さを改めて感じた”という想いが多く語られました。

「街中を歩いていて、手話で会話できるのが当たり前の世の中になってほしい」。青木さんの言葉には、長年活動を続けてきた想いが込められています。

「手話を完璧に知らなくても、心の扉が開けば、なんとか通じる方法はある」。そう信じて、シュワッチは今日も活動を続けています。

今後は「ワークショップを企画したり、映画上映会を開催したり、新しいことにもチャレンジして、もっと多くの人に手話とシュワッチの活動を知ってほしい」。メンバーたちの願いは、これから60周年、そしてその先へと続いていきます。

手話に興味を持ったあなたへ

「手話に興味を持ったら、ぜひ足を運んでみてください」とメンバーたちは呼びかけます。

シュワッチでは、初心者から経験者まで、どなたでも歓迎しています。日本手話や日本語対応手話※など、いろいろな手話の表現方法があり、個人個人で使い方も違います。どれが正しいとか間違っているとかではなく、お互いの手話を教え合いながら学んでいます。

手話講習会では、看護大学の学生や親子で参加する方など、さまざまな人々が集まっています。

「ここに来たら誰かがいて、楽しくなって笑顔で帰れる場所」

まずは一度足を運んでみませんか。あなたの”はじめの一歩”を、シュワッチの皆さんが温かく迎えてくれます。

※手話の種類について…日本手話は日本語とは異なる独自の文法を持つ手話、日本語対応手話は日本語の語順に沿って表現する手話です。

編集後記

取材中、メンバーの皆さんの笑顔と温かい雰囲気が印象的でした。「楽しい」という言葉が何度も出てきたことが、50年続いてきた理由を物語っているように感じました。手話は単なるコミュニケーション手段ではなく、人と人をつなぐ「言葉」であり、お互いを理解し合うための大切な架け橋です。まちで手話を使う人を見かけたら、まずは笑顔で挨拶してみる。そんな小さな一歩から、共生社会は始まるのかもしれません。

団体情報

手話サークル「シュワッチ」

聴こえない人、聴こえにくい人、聴こえる人が共に手を取りあって活動しているサークルです。手話講習会では、小学生から80代まで、みんなで仲良く学習しています。あなたも、ぜひ手話の世界へ!

手話講習会

日常生活で使える手話を楽しく学べる1年間の初級コースです。シュワッチは、火曜コース(19:00-21:00)と土曜コース(13:00-15:00)を担当しています。

お申し込み先

(福)宗像市社会福祉協議会
宗像市ボランティアセンター(宗像市久原180番地メイトム宗像1F)

令和8年度の手話講習会のお申し込みは、公式LINEで受け付けます。(受付開始予定:2月末頃〜)

※①希望コース ②氏名 ③住まい ④年代 ⑤連絡先 ⑥手話の経験 をお知らせください。見学のみの場合はその旨をお知らせください。
※講習会の開講式は、令和8年4月に行います。
※火曜コース・金曜コース・土曜コースがあり、火曜と土曜コースの指導グループは手話サークル「シュワッチ」、火曜コースの指導グループは玄海手話サークルゆび が担当します。
※各コースとも定員30人(要申込み・先着順)。定員になり次第、申込み受付終了とさせていただきますのでご了承ください。


取材日:2025年12月1日
取材協力:手話サークル「シュワッチ」代表 青木さん、吉永さん、江崎さん、原田さん、柿原さん、藤田さん、𠮷野さん、仁田原さん

今回の取材記事は、市民活動・NPOセンターだより「ひとつぶ」(令和8年2月発行予定)へも掲載しています。

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